ミスター横高

俺が通っていた高校の運動会の最終種目は「ミスター横高」という競技だった。
今もそうなのかなあ。
説明せねばなるまい。
ミスター横高とは、
水を並々と満たした一升瓶を腕を地面に平行にして突き出し体軸と直角に保持してもう片方の腕は腰に置いた体勢をいかに長い時間保持できるかを競うものである。
優勝者は「ミスター横高」としてその栄誉が称えられる男塾名物的な競技である。
民明書房刊「横手高校列伝~美入野の漢たちよ永遠なれ~」より~
特に最上学年である三号生(三年生)にとってはミスター横高を二号生以下の学年に明け渡すことは許されず、死守すべきものとして気合いが入るのである。
水泳部の先輩公地さんがミスター横高であったことは水泳部の誇りでもあった。
さて、俺が三年生の時の運動会の時クラスのミスター横高出場者は同じ水泳部の西田(にした)であった。(にしたの発音は「ミスト」の発音と一緒である。)平泳ぎが専門であるが西田はそんなに速いわけではなかった。
西田はその歌のうまさから音楽の歌のテストで教科書の課題曲でなく「ラブイズオーバー」by欧陽菲菲を歌っても許され、音楽の先生もピアノでラブイズオーバーの伴奏をしてくれるくらいの漢であった。
またビルボードのトップ100を毎週暗記しており「今ダイアーストレイツ何位?」って聞くと「18位。」と即答してくれるのだ。

ミスター横高に話を戻そう。
クラス対抗リレーも終わりグラウンドに等間隔でならんだクラス代表選手達は柔道部や野球部の猛者ばかりであり、各クラスの気合いが伝わってくる。
そんな中西田は緊張する素振りもみせず、「クラスのためにがんばる。」と俺に淡々と告げて定位置についたのである。
クラスはリレーで一位になったこともあり全員が一致団結して西田を応援していた。
競技が開始され、全校生徒と全教員及び職員が最終種目ミスター横高を固唾をのんで見守っていた。
どんどん選手が脱落していくなか、西田は残っていた。
西田~!がんばれー!西田~!
クラスのみんなが西田を応援している。
残り数人になり、西田はまだ残っている。
みんな絶叫していた。
もしかしたら西田優勝するかもしれない。

そのうち西田が震えだした。
その震えは最初はさざなみのように、それがどんどん大きくなり、津波のように西田の体に襲いかかる。
西田は体全体ががくがくと痙攣しても一升瓶を下ろさなかった。
西田~!大丈夫か~!がんばれー!西田~!

結果は3位。
でも、西田のがんばりはクラスはおろか他のクラス及び下級生そして先生にも伝わるほどのがんばりであった。

その西田はもうこの世にはいない。
西田の夢は歌で生きていくことだった。
いまごろ天国でラブイズオーバーを、真夜中過ぎの恋を歌っているかもしれない。
俺の中では今も西田はミスター横高だ。

インターハイが中止になった今日急に思い出した。
長くてすみません。